2021.10.26

音大からテレビ業界へ!そして“就活する音大生”に伝えたいこと

音大からテレビ業界へ!そして“就活する音大生”に伝えたいこと
青山ななみ

福井県出身。

国立音楽大学 音楽学部 演奏・創作学科 声楽専修 ならびに歌曲ソリストコース卒業。

現在、番組制作会社に勤務。

趣味は「ひとり」旅行。(コロナでお預け中…)

音大生が自身のキャリアを考えるために、音大卒業後のキャリアについてインタビュー。

今回のゲストは、国立音楽大学で声楽を学んでいた青山ななみさん。

信念をもって‘‘好き”を極め続けた多彩な学生時代、そしてすべての音大生に読んでほしい力強いメッセージを頂くことができました。

 

音楽と言葉への興味に溢れる学生時代

 

-まず、音楽大学に入ったきっかけを教えてください。

 

小さな頃から歌が好きだったので、中学の時から合唱部に所属していて、高校も福井県の仁愛女子高校音楽コースに進学しました。そして、せっかくなら都会に出て、日本でも有数の大きな音大に入って更に専門的な勉強がしてみたいなと思い、国立音楽大学に進学しました。

 

-中学の頃から音楽の道を考えていたのですね。

 

そうですね。

でも、私の場合は「音楽家になりたいから音大に入った」という意識は当時無かった気がします。例えば歌だと、音楽と歌詞との関連など、より専門的な音楽の勉強をしてみたいという想いから、音大への進学を決めたという感じでした。

 

-青山さんは、高校時代にご自身の書かれたドラマ脚本が映像化されたりもしているんですよね。(※)ドラマを拝見させて頂いたのですが、とても繊細で内容の深い作品に驚きました。そのような活動もされていて、音大以外の、例えば文学部などへの進学を考えたことはなかったのですか?

※2014年、青山さんのドラマ脚本作品『十七歳』は、フジテレビ「ドラマ甲子園」にて大賞を受賞。2017年には2つ目の作品『十九歳』も手掛けられ、どちらも映像化されテレビ放映されました。

 

たしかに文学や脚本などにも興味はありましたが、当時を振り返ると、やっぱり音楽に対する興味の方が大きかったのかなとは思います。

 

-歌の勉強を進めていく中で、ご自身の中で「歌」と「文学や脚本」の繋がりはあったのでしょうか?

 

例えば、歌だと歌詞がありますよね。

昔の偉人たちは、すごく美しくて洗練された言葉を使っているなと感じます。だから私にとって歌を勉強することは、音楽だけじゃなくて文学の勉強でもあったんです。

その作品が作られた背景や、詩人がどういう人なのか、どういうところで育ったのか、などを調べたりもしていました。

そういったところは、「歌」と「文学や脚本」の繋がりかなと思います。

 

心惹かれるのは「歌詞の美しさ」

 

-音大時代に印象に残っていること、例えば、楽しかった授業などはありますか?

 

一番楽しかったのは合唱の授業ですね。

何が面白かったかというと、当時勉強していたものが、オラトリオやミサ曲などの宗教曲がすごく多かったんです。そういったものの歌詞に触れる、要するに聖書の言葉に触れるというのは、自分の中で新しい試みだったんですね。

私はクリスチャンではないので、聖書の言葉は全く未知の世界の話だったんです。なので、歌詞に神様やイエス・キリストの言葉が入っていたりするのがとても新鮮でした。

 

合唱の授業の先生は、ご自身がクリスチャンということもあって、聖書の言葉に対して細かい説明をしてくださいました。希望したメンバーで小さなクラブを作ってくれて、宗教にとらわれず聖書の言葉を勉強してみようという企画をしてくださったり。

旋律や音程だけに捉われない、「音楽を全体像として捉える」という勉強の仕方を教えてくれた先生でした。音楽と言葉の融合が合唱という形で表れることを実感できたので、その授業はすごく印象的でしたね。

その先生とは今でもたまにやり取りしていて、本が好きな方なので、こういう本を読みましたとか、音楽以外の話もしたりしています。最近はあまり連絡を取れてないのですが、一生の先生だなと思っています。

 

-青山さんは、国立音楽大学の歌曲・ソリストコース(※)に在籍されていたのですよね。レベルの高いコースへ入ったきっかけは何だったのでしょうか?

(※選抜試験で選ばれた学生が、一段と高度な演奏表現習得を目指す専門のコース)

 

そうですね。音楽の「道」を突き詰めていこうという意思が強かったわけではなくて、この音楽が気になるな、この詩をもっと読んでみたいな、もっと勉強してみたいな、という興味や関心の積み重ねで、コースに入れることが出来たという感じがしますね。

 

-そういった興味・関心や、音楽や歌が好きという気持ちの原点は何なのでしょうか?

 

あまり音大生らしくないと思うのですが、「歌詞の美しさ」だと思います。私は特に日本歌曲がすごく好きでした。

 現代人の言葉使いって、希釈されているというか、洗練されていない感じがある。でも、昔の作品を振り返ると、本当に美しい響きの言葉で溢れているんです。そういった作品に出会った時に、この曲を勉強してみたい、この詩にはどんな旋律がついてるんだろう、と想像するわけです。

 私の場合、歌詞ありきの音楽なんですよね。

作曲のプロセスも一緒じゃないですか。歌詞があって、作曲家がそれを読んで「これいい!」と思って曲をつけますよね。それと同じで、私も先に歌詞を知ってから、「これいい歌詞だな、勉強してみたいな」となることが多かったですね。

 

-最初に歌詞や言葉から何かを得て、音楽と結び付けていったのですね。

 

実際、歌の先生のところに「この曲やりたいです」と持って行ったら、「あなた、この曲どこから見つけてきたの!?」と言われたりしました。「この歌詞を読んで勉強したいと思ったんです!」と言っていましたね。そしてその後は歌のレッスンじゃなくて、朗読のレッスンになるわけです(笑)

 

-それはすごいですね(笑)青山さんは言葉の方面から作品を探しているから、先生もご存知無かった作品が出てきたのかもしれないですね。

 

そうみたいですね(笑)

青山さんが制作されたドラマの雰囲気に似た1枚。

 

日本人だからこそ共感できる音楽

 

-イタリア、フランス、ドイツなど様々な言語の歌曲がある中で、どうして日本歌曲に惹かれたのですか?

 

それ、実は聞かれたい質問です(笑)「日本人なのにどうして日本の曲歌わないの?」って思いませんか。

もちろん、イタリア歌曲やフランス歌曲なども勉強すべきことなのですが、それ以前に私たちは日本人で、日本人の古来の心を持っていますよね。

そして日本語の作品は、日本人の心や歴史的背景があって書かれたものだから、本来、私たちが一番共感しやすいはずなんですよね。

 

逆に言うと、イタリア歌曲やフランス歌曲は、作られた歴史的背景や文化面でも全く異なっていたりする。曲の背景にあるものが日本人とは全くかけ離れていたりするので、そこも埋めようとすると、途方もない時間がかかりますよね。

決してそれが面倒だということではなくて、自分にとって一番共感しやすい音楽は何かなと思った時に、私は日本歌曲だったんですね。それは日本人だから。

 

-確かにそうですよね。日本人ならではのニュアンスなどもありますし。

 

イタリア歌曲やフランス歌曲が嫌いだったわけではないし、実際に自分も勉強していましたが、どうして日本歌曲がとりわけ好きだったのかと言われると、やっぱり自分が日本人だから一番共感できるし、一番感情を込めて歌と同化できる。

歌い手として一番良いスタンスでその曲を歌える、という所に辿り着いたのかなと思っています。

 

-ちなみに、日本歌曲でお好きな曲はありますか?

 

布教したいレベルで好きな曲があって(笑)

猪本隆先生の「悲歌(ひか)」という歌です。この歌詞を書いているのは、尼崎安四という京都出身の詩人です。

彼は結婚もして子供もいたのですが、心の中に孤独、飢え、悲しみを持っていたようで、その気持ちを詩集に残しているんですね。

彼が遺した詩は決して多くはありませんが、一般に刊行された詩集はたった一冊で、入手さえ困難です。でも、そこに書かれている詩はどれも珠玉のような詩。とりわけ、猪本隆先生が取り上げた「悲歌」という曲は、私は日本歌曲の中で一番好きです。自分が死ぬ前に、この曲をもう1回聴けたら幸せだなと思えるくらい好きなんです。

 

-熱い想いがとても伝わってきます。悲歌、聴いてみたくなりました。

 

“マニュアル”がないお仕事は、変化の毎日

 

-現在は、どのようなお仕事をされているのか教えてください。

 

テレビ・映像関係の制作会社に勤めています。

テレビ番組を作る仕事ですね。そこで、報道番組の制作に従事しています。

 

 -このお仕事を選んだ理由は何だったのですか?

 

最初にご紹介して頂いたように、私はもともと大学の時にテレビのお仕事をしていて、ドラマを作っていたんですね。

でも、ドラマの道を志すにしても、そもそも、自分の経験があまりに乏しいということに気づいてしまった。そして、一番経験を積める職業って何だろうと思った時に、テレビのディレクターかなと思ったんです。

 本当に日々、仕事内容が違うんですよ。取り上げるトピックも違うしメソッドも違う。だから、毎日同じことがひとつもない職業だったりします。いわゆる“マニュアル”がこの仕事には無いんですよね。

臨機応変に動くことが求められている職業なので、自分でチャレンジしたいことがある人にはすごく魅力的な職場だと思います。

 

-マニュアルが無いとなると、見て学ぶことが多くなりそうですね。

 

多いですね。だから、音大と似ているなと思います。

私の歌の先生は、「私がどう歌うか見てて」といつも仰っていました。それと似ているなと思うんですよね。

 

-他に、音大出身であることで感じた強みなどはありましたか?

 

度胸があることですかね。

音大に入ると発表の機会が結構ありますよね。ステージに立って演奏する時に鍛え上げられた度胸みたいなものは、今の仕事をしていて息づいているなと思います。(笑)

 

-今お仕事をされていて、音楽をやりたいなと思ったりすることはありますか?

 

それはあります。ただやっぱり、音楽をやるには時間的に厳しいですね。

だから逆に言うと、音大を通じて勉強してきたことを、今どう生かすかというところにフォーカスを当てた方がいいなと思っていますね。

言葉一つひとつを大切に喋られる青山さん。その世界観に私たちもハッとさせられます。

“就活をする音大生”に伝えたい想い

 

私が話したいなと思っていたことが一つあるのですが、話してもいいですか?

 

-もちろんです、お願いします。

 

自分の実体験から喋ることなのですが、音大に行って就活すると言うとアウトローな感じがする時ってあるんですよね。

周りから「もったいない」と言われたり、「えっ、諦めちゃうの」と言われたり、なんだか俗に下ってしまった人みたいな目線を向けられたりだとか。

そういうことが積み重なってくると、自分は音楽ができなかったから就職するんだ、という考えになってきちゃうことがあるんですよね。

 

大学3、4年生で就職を考えている人は、こういったことに絶対にぶち当たると思うんですよ。

自分は音楽が出来なかったから就職するんだ、とか、自分は負け組なの?って。

私が当時実際に感じたことだと、ある時周りから言われた「もったいないんじゃないの」という言葉が自分の中にすごく突き刺さって、ものすごく辛かったんです。

 

でも、私が2年間働いたからこそ言いたいのは、「絶対にそこでうつむかないで欲しい」ということ。

 

卒業後どうあるかが一番大事なのではなく、大学時代に勉強したことをこれからの人生にどう生かしていくかという方向の方が大事なのではないかと思うんですよね。

音大を出て音楽と無関係の仕事に就職したから何もなかった、ということにはならないはずです。

 

音楽を勉強して、それが就職に活かされたなら素晴らしいことだと思うし、音楽家にしろ一般就職にしろ、勉強したものをどうインカム(収入)につなげていくかという観点から見ると一緒なんですよね。

なので、当時の自分が感じていたように就職に対して何か引け目を感じている方がもしいらっしゃるなら、絶対にそこでうつむかないで欲しい。堂々と胸を張って、就職しましたと言って欲しいって思います。

 

-本当にそうですよね。今、同じように悩んでいる人も多いと思います。

 

私、就活中、面接を受けるために山手線に乗っていて、なんだかとっても悲しくなって泣いたことがあったんですよ。泣き腫らした赤い目のまま面接受けて、それで内定もらったのが今の会社なんです。

 

今思うと、なんであの時泣いていたんだろうと思います。就職することはとても素晴らしいことだと思うし、実際に働いてみて勉強したものが活かされていると思うし。

周りの言葉は少なからず自分の中に作用すると思いますが、そんなことは気にしないでいればいいんだよ、と過去の自分に声をかけてあげたいなと思います。いち音大生として勉強したことを活かすという点では(一般大学と)変わらないことなんだと思いますね。

 

-音楽の道を極めて進む人ももちろん素晴らしいと思いますし、就職をすることで自分のフィールドをどんどん広げていける人もすごく魅力的ですよね。だからこそ、音楽をやってきて、それが今仕事に活かされているという青山さんの生き方にはすごく魅力を感じます。

 

ありがとうございます。

情勢的にも就職を選ぶ人もきっといると思うんですよね。でもそこに引け目を感じてほしくないな、とすごく思っていて。

捉え方ひとつで世界は変わってくるんだなということを、2年間働いて感じています。そして、就活当時がすごく苦しかったからこそ、今言えることかなと思います。

 

-青山さんのこのお話は、音大生みんなの胸を打つ言葉だと思います。

 

なんだか、このことを話す人ってあまりいないんですよね。

「就職って負けでしょ」みたいな雰囲気って実際にあるのに、そこが問題化されることってあまり無いじゃないですか。就職した人に話を聞いてみると、「でも私は就職して良かったと思います」とみんな言うけれど、音大生だった当時は絶対何か感じていたはずなんですよ。でもそれを話す人っていないんですよね。

なので、私は今この場で話したいなと思ってお話させてもらいました。

 

-ありがとうございます。とても勇気をもらいました。

ご自身の経験を踏まえて話されたメッセージ。インタビューであることを忘れ、聞き入ってしまうほどでした。

今後の目標と、音大生に向けてのメッセージ

 

-青山さんの今後の目標を教えていただけますか。

 

何でもできる人を目指していきたいです。今学んでいる語学や、人とのコミュニケーションなども極めながら、即戦力かつマルチタスクな人間になりたいと思っています。

なかなか高望みだとは思いますが、社会に出た以上、人の役に立てる人間になりたいと思いますね。そしてこれまで勉強したことも、もっと活かしていきたい。音大を出た、自分にしか出来ないこと、きっとあると信じています。

 

ーでは最後に、音大生に向けてメッセージをお願いします。

 

先ほどと被りますが、卒業後の進路について、それぞれが勇気を持って選んだその道は間違っていないから、絶対にうつむかないで欲しい。

周りの空気で自分の心を折らないで欲しい。前を向いて、一歩ずつ進んでいって欲しいなと思います。

 

-とても力強いメッセージをありがとうございました!

中村このみ
宮城県出身。国立音楽大学大学院 音楽研究科修士課程 器楽専攻(ピアノ)修了。roooot編集長。 3歳からピアノを始める。現在は一般企業に務めながら、演奏活動も行っている。最近ハマっているのはハーブティー。
#営業  #藝大  #カメラマン  #ガラスアクセサリー  #桐朋  #エージェント  #演奏会企画  #桐朋学園大学  #不動産  #コンサート企画制作  #東京藝術大学  #音大准教授  #編集長  #東京音大  #ここっと  #武蔵野音大  #作曲家  #マリンバ奏者  #ピアニスト  #パラレルキャリア