2021.10.17

仕事とピアノを両立する中でじっくり音楽と向き合う。教育系企業で可能性を広げるフレキシブルな前進力。

仕事とピアノを両立する中でじっくり音楽と向き合う。教育系企業で可能性を広げるフレキシブルな前進力。
瀬沼惟文

大阪府出身

日本大学藝術学部音楽学科ピアノコース卒業。

現在は教育系企業にて労務管理業務に従事している。

趣味はヴァイオリン、音楽鑑賞、読書

音大生が自身のキャリアを考えるために、卒業後のキャリアについて音大生ならではの視点でインタビュー。

今回のゲストは、日本大学芸術学部でピアノを学び、現在は教育系企業で働きながらピアノを続ける瀬沼惟文さん。
仕事と音楽をどちらも充実させる彼の前向きな姿は、未来に向き合う私たちに一歩踏み出す力をくれるはず。

 

専攻を越えて幅広くチャレンジした学生時代

 

ー音大を目指したきっかけを教えてください。

 

音楽が好きなので、音大への強い憧れがありました。音大の全てが輝いて見えたのを覚えています。

 

4歳からピアノを始め、普通科の高校に通っていましたが、4年間何かを学ぶかを考えた時、ずっと続けてきた音楽をやりたいと思いました。ただ、最初は教員志望だったので教育系の中の音楽専攻を目指していました。

 

ー日芸を選んでよかったことは何ですか。

 

日芸は変わった人がやや多いので、いい意味でいろんな刺激がありました。たとえば映画学科の子から頼まれて、映画に音楽をつけたことはいい体験になりました。

 

また、美術が好きで美術史の授業も取っており、いろんな環境の人と接することができてすごく有意義だったかと思います。

 

 

ー他学部の学生とも関わりが多い環境だったのですね。

 

そうですね。なるべくいろんなことに関わりたいと思っていたので、機会があれば他学部の授業にも積極的に参加をしました

 

教授や常勤の先生には門下生が一学年で何人かいましたが、非常勤の先生だと各学年一人ずつという場合が多く、ピアノ専科が同学年は私一人だったので丁寧に見てもらうことができました。

 

ピアノだけでなく、西東京ジュニアユースオーケストラというジュニアオケでバイオリンも弾いています。好きなことや得意なことに、とことん専念できるのが大学ならでは。楽しかったですね。

 

ーバイオリンはいつから始めましたか。

 

高校1年の頃に部活で始めました。高校ではずっと部活だけでしたが、部活の指導に来るトレーナーの先生がオケの指導もしており、 高校卒業後に弾く機会がないという話をしていたところ、オケもやっているからそっちに来ない?と誘われてジュニアオケに入りました。

 

ー大学時代に特に印象に残っているエピソードはありますか。

 

ピアノの伴奏が大変でした。先生のクセがあったり、歌と木管と金管だと息遣いや呼吸が全然違ったりするので、伴奏する相手が違えば弾き方も変わります。

 

だからこそ他の楽器の子と一緒に演奏することで学べることがすごく多いし、いろんな先生から話を聞けたり 指導いただけたりするとてもいい機会だと思います。

 

その思いから、伴奏の依頼はなるべく引き受けており、副科で取っていた声楽では、門下生をまとめて10人くらい伴奏していました。楽譜をピアノの上に山積みにして事務作業のように譜読みをしていました(笑)

 

 

作曲者の思いを形にする「初演」の面白さにひかれて

 

学生時代に楽しかったことと言えば、作曲の初演です。年に2回は試験や作曲の発表会などで演奏する機会があるのですが、作曲の初演は必ずやっていましたね。

 

普通高校卒業なので「作曲の初演ってそもそも何だろう?」からのスタートでしたが、その場で初めて曲が出来上がるところに面白さを感じるようになりました。

 

同級生や先輩、後輩が書いた曲をその場で初めて弾かせてもらうのは他の何にも代えがたい経験でした。

 

ー瀬沼さんにとって初演の魅力は何ですか。

 

生きている人が書いている、というところでしょうか。普段演奏する曲はもう何百年も前の人の作品であることが多いですが、初演の場合は友達がどのような思い、感情で書いたかが目に見えて分かるので、その曲が出来た意図をより細かく知ることができます。

 

いわゆる現代曲は調性がなかったり、拍が不明瞭だったりと少し複雑な作品が多いので、そもそも曲の難易度が高くて練習が大変ですが、どんな曲よりも達成感はありますね。

 

初めてそこで披露されるので失敗できないという思いもあります。間違って弾いてしまうとそれが後世に残ってしまうので(笑)

 

ー楽譜をもらった時に、どのような思いや背景で書いたかを詳しく教えてもらえるのですか。

 

これってどういうことだろう?」とわからない時には率直に聞くことができますが、恥ずかしがって教えてくれないこともあります。ただ教えてもらわなくても、実際に頭を抱えて書いているのを見ているので、相当大変なのは伝わってきますね。

 

ー今でも心に残っている初演の曲はありますか。

 

卒業演奏会の時に自ら指揮を振った曲があります。プラズマという曲です。

 

ヴァイオリン・チェロ・フルート・クラリネット・オーボエ・ピアノの編成で、作曲者したのは同級生。この曲はかなりすごい曲でした。作曲をした彼は本当に優秀で海外の大学で今も勉強している方ですが、曲の難易度がとても高かったです。

 

技術的にすごく難しくて指揮を振るのに高い技術が必要になる上に、各楽器の楽譜がとにかく難しい。彼は本当に天才で、天才が書いた曲をまとめるのはすごく大変でした。

 

大変だったからこそ、みんなで考えながらひとつの曲を完成させたのが印象に残り、今でも忘れることのできない思い出です。

 

 

 

人に関わる仕事を目指し、人事部で社員のパフォーマンス向上のために働く

 

ー卒業後は企業に就職する道を選んだのですね。

 

はい。主に塾などを展開している教育系企業の人事系の部署で働いています。もともと古典が大好きで、古典を教えたいと思っていました。学生時代の四年間、古典や英語などの文系科目を教えていた塾にそのまま就職しました。

 

ー会社では今どのようなお仕事をしていますか。

 

な仕事は労務管理です。給与支給の業務や社会保険や税法に関する業務全般を担当しています。

 

もともと人と関わる部署を希望していたところ、まず社員の育成を行う部署に1年配属されて、その後採用を行う部署を2ヶ月ぐらい経験し、今の労務系の部署に来ました。

 

ー仕事のやりがいを教えてください。

 

給与支給の仕事は労務系の中でも特に金額のミスが許されないので、かなり神経を使っていますね。社員の給料に直結するのだという自覚を持って仕事をしています。

 

今は働く環境を大切にする時代なので、会社運営にとっても労務管理はすごく大事だと感じています。

 

 

ー瀬沼さんにとって人事の仕事の魅力とは何ですか。

 

最終的に人に帰着するところが人事の仕事の魅力だと思います。人がこの会社を動かしていて、人がいてこそ成り立っているのが会社です。だから社員がいかに気持ちよく働くことができて、いいパフォーマンスができるかは重要。

 

ここで働きたいと思ってもらうために採用業務を行い、入社してからよりいいパフォーマンスをしてもらえるよう、社員を育成して、働きにくいところがあれば労務管理が相手をします。

そうすると人事の仕事は最終的には人に帰着するというか、仕事を通じて社員がどうなっていくのかを見届けることができ、人と関わりたい人には向いていると思います。

 

また、細かいところにすごく気がつきやすい、気になるのですが、これは音楽をやっているからならではの特性だと思っています。

 

ー勘を働かせて物事をチェックするのは音楽家特有かもしれないですね。

 

そうですね!

 

ー音楽一本で生計を立てる考えはなかったのですか。

 

教育実習を受けていたので、教員になる道も最後の最後まで考えていましたが、音楽を教えるのは得意ではないと感じていました。

 

音楽を教えるは意外と大変で、当たり前に音楽をやっていると、できない子にどうやって教えたらいいのかが分からないんです。音楽に興味がない子も多かったりして。

音楽は楽しくやりたかったので、自身が演奏する時間を確保できるような仕事がいいと思っていました。

 

ーお仕事の日のスケジュールを教えてください。

 

朝10時に出社して18時半に終業という普通の勤務形態です。帰宅後は夜遅くまでひたすらピアノを弾いています。コンクールを受けたり発表会に出たり、伴奏を頼まれることもあるので、1日に3、4時間くらいは弾いています。

 

もしかしたら学生の時よりも自分の練習はできているかもしれないですね。山のような伴奏に追われなくていいので(笑)試験もないですし。

 

 仕事終わりにバイオリンの練習もしています。社会人になった今でもジュニオケを続けていて、大学入学時に入って今年で6年目になりました。

 

 

ージュニアオケではどんな活動をしていますか。

 

練習が月4回あるほか、何かと演奏の機会があるので出るようにしています。コンクールや通っている音楽教室の発表会、勉強会などがあります。

 

拍が分からなくなってしまった子に、ここはこうだよと音楽的なことを教えたり、アドバイスしたりもします。

 

音楽と仕事、どちらも充実させる

 

ー社会人になってからもジュニアオーケストラに関わっている理由は何ですか。

 

ピアノは個人競技ですよね。だからアンサンブルをしたいんです。人と一緒に演奏したいという気持ちがありました。

先ほどの作曲の話にもつながりますが、一人じゃなくてみんなで音楽をやるためにオケに参加しています。

 

ー社会人になってからも音楽を続けるのが理想である一方、実現するのは簡単ではないと思います。仕事と音楽を両立する原動力はどこにあるのでしょうか。

 

私の中ではどちらがメインでどちらが趣味という認識はなく、仕事と音楽どちらもメインと思っていて、音楽でもチャレンジをしていくつもりです。仕事はもちろん全力でやり、音楽も全力でやりたい。

 

だから、すごく残業が多い代わりに達成感があって、お給料がすごくいい仕事よりは、自分の時間を大切にできる働き方が合っていると思い、そんな働き方ができる仕事を選びました。

 

やはり音楽は時間があってこそできることだと思うので、自分の時間を取りやすい仕事に就けたのはよかったです。

 

ー音楽のための時間はどのように捻出していますか。

 

時間内に仕事を終わらせることを意識して業務に取り組んでいます。

 

とにかく決められた時間内で何かをこなしたい性格なので、ピアノの練習でも、仕事でも、時間内に終わらせられるよう頭をフル回転させています。労務管理の部署ということもあり、勤務時間を意識した働き方に率先して取り組んでいます。

 

 

ー残業のない状況を自分で作り出しているということですね。

 

作るように努力をしています。たとえば、エクセルなどパソコンでできることは全部パソコンにやらせてしまう。

 

た給与支給の業務は時期によって忙しさに波があるので、忙しい時期に向けてあらかじめ準備しておき、業務量を分散させるようにしています。

 

 

ー今後の人生プランを教えてください。

 

音楽と仕事、どちらも同じぐらい頑張っていきたいと思っています。

以前、仕事をしながら音楽を続けている方とお話する機会があり、その中で趣味だからこそ音楽にじっくり向き合えるということにとても共感しました。

 

ピアノを職業にすると本番や伴奏など、いろんなことに追われてしまうので、じっくり1曲に向き合えるっていうのは趣味だからこそできることだと思います。今の仕事においては資格を勉強し、専門分野の知識を広げたいと思っています。その資格を取ることによって普段の仕事も円滑に進むようになると思うので。

 

ー音大生の皆さんにメッセージをお願いします!

 

何かを専門にするのはすごく難しくて大変なことですよね。そんな時は、どちらかを選ぶのではなく、ある程度環境が整うまでどちらもやってみるのも手。

 

音楽をメインに、あるいは仕事をメインに、と初めから一方に絞らず、音楽で食べていける環境が整うまでは仕事もして、その間にいろんな人と関係を築いて音楽に専念できる環境を整えていくやり方もあります。

キャリアの選択で迷ったり、しっくりくる答えが出ない時は、一呼吸ついて環境を整える時間が必要なのかなと思います。

松長恋愛
滋賀県出身。 東京音楽大学音楽学部音楽学科器楽専攻トランペット3年在学中。 3歳からピアノ、 小学2年生からマーチングバンドでトランペットを始める。 趣味はカメラ、旅行。
#営業  #藝大  #カメラマン  #ガラスアクセサリー  #桐朋  #エージェント  #演奏会企画  #桐朋学園大学  #不動産  #コンサート企画制作  #東京藝術大学  #音大准教授  #編集長  #東京音大  #ここっと  #武蔵野音大  #作曲家  #マリンバ奏者  #作曲  #映画音楽