2022.4.6

『夢を叶える道』はひとつじゃない

『夢を叶える道』はひとつじゃない
漆畑奈月

東京音楽大学大学院 修了

現在ミューザ川崎シンフォニーホール 事業企画課勤務

趣味は吹奏楽、高速道路のジャンクション鑑賞

音大生が自身のキャリアを考えるために、音大生自身が音大卒業後のキャリアについてインタビュー。
今回のゲストは、東京音楽大学大学院を修了し、現在ミューザ川崎シンフォニーホールでお仕事をされている漆畑奈月さん。
コンサートホールに勤めるまでの様々な挫折や経験、そして音楽に対する想いなどたっぷりお伺いしました!

 

 

音楽に触れる毎日の裏には挫折も…

 

ー漆畑さんが音楽を始められたきっかけを教えて下さい

 

昔から歌が好きで、毎日歌っているような子どもでした。中学1年生の時に吹奏楽部に入ってクラリネットに出会い、そこからずっと音楽を続けてきました。

そして、吹奏楽強豪校に進学し、周囲に感化されて私も指定校推薦制度を使って地元の短大の音楽科に進みました。

ところがどうしても東京に出たくなって、仮面浪人のような感じで色々な音大を受けては落ちるを繰り返し、短大を2年で卒業するつもりが気が付いたら4年も経っていました。

4年目でようやく東京音大の音楽教育学科に滑り止めで合格できて、学士を取ったのにまた音大に入り直したというわけです。

 

ーそうなんですね。短大を卒業してそのまま就職する道もあったと思うのですが、なぜまた大学に入り直そうと思ったのですか?

 

受験をしている段階では、自分はまだ音楽家になれると思っていたからです。

しかしそれは幻想でした。東京音大に来たら自分より4つ下の周りの子達が上手すぎて。入学5日位で挫折しまして、2週間くらい引き篭もっていたんですけど、「あ、これじゃいかん」と思ってACT Project(※)に入りました。

※音楽のプロを目指す実体験プログラム。演奏者以外の立場での音楽業務(演奏会の企画・運営)を学ぶ選考型授業

 

ーなるほど。

 

そこから制作の勉強を始めて、制作の勉強と楽器の練習や他の色々なこともやりつつ、2008〜9年の2年間を東京音大の学部生として過ごしました。

その後、2年生の冬に東京音大の大学院の試験を受けました。飛び級ではないんですけど、一旦学部を退学して大学院に入り、修士を取って、ようやく社会に出ました。

 

ーえ〜凄い!ずいぶんと複雑な進路を歩まれたんですね!

 

制作を志しチャレンジし続ける日々

 

ー大学時代に制作を勉強されたACTで、印象に残っているエピソードはありますか?

 

ACTに所属していた時にイラストレーターやフォトショップなどの専門的な編集スキルを学ばせていただいたので、今でも実際にチラシを作る際に大変役に立っておりますね。

 

ー漆畑さんはACTに所属されていた期間に、全国の学生企画公募で採用された事もお有りなんですよね!

 

あ〜そういえばありましたね。懐かしい。サントリーホールが主催されていた学生企画公募(※レインボウ)にACTが毎年参加していたのですが、私の企画したものが運よく校内コンペで残り、公募に提出したところ演奏会をやらせていただける事になったんです。周りの支えがあったおかげで何とか満席での公演でした。今思うと私にとってチケットを自分で売るということの始まりでした。
※都内のアートマネジメントに興味がある学生対象で、自分の企画した演奏会を小ホールのブルーローズで演奏することができるチャンスをいただけるという企画

 

他に音大で良かったと思うのは設備が充実している事です。今は楽譜や文献に当たろうとすると、本当に大変なので…いつでも楽譜が借りられる図書館は私にとってパラダイスでしたね。気づけば4年間ほぼ図書館にいました。

 

ギャップを感じたら一歩踏み出す時!

 

ー音大生と世間のギャップ、音大生がもつ良い面を感じることはありましたか?

 

ギャップを感じている人がいるとしたら、その人は外に出なくてはいけないかなと私は思います。

自分の知っている世界と外は何か違うぞ。と思った瞬間が勉強の始まりだと思うので。

でも決して、ギャップを感じて自分にできることは何だろう。と他のことにチャレンジすることは、逃げではなくて自分の可能性を探すプロセスなのでいろいろやってみたらいいと思います。

ご自身の経験を踏まえ、今の音大生に向けて沢山のお話をしてくださいました。
ご自身の経験を踏まえ、今の音大生に向けて沢山のお話をしてくださいました。

音楽は心の支え。

 

ーコンサートホールで働く事を決めたきっかけは何ですか?

 

私に向いていることは、後ろから支えることなのかな。と大学に入り直してようやく確信したので、東京音大に入った直後からずっとコンサートホールに勤めたいと意思が固まっていました。短大の時にも、先輩方の定期演奏会を後輩が作るという授業があったのですが、それが割と面白かったというか、スケジュール通りにきちんとはめていく作業が凄く好きだったんです。

あとは、全てが終わって祭りの後の様なガラーンと誰もいなくなったコンサートホールを見た時に『あ〜これは楽しい』と。

勝手に「私がこのホールに就職するんだったらこういう企画をやります」っていう企画案を持って行ったりしていたのですが…

コンサートホールに勤めるかどうか悩んでいた時期も正直ありました。実は1年間くらい普通の会社の就職活動も並行していたんですね。その時にちょうど3.11の大地震があり、原点に戻った時にやっぱりコンサートホールに務めようかなと思ったんです。

 

ーなるほど…

今のお仕事内容と1日の勤務スケジュールについても教えていただけますか?

 

広報のお仕事を2人で分担していまして、雑誌や新聞媒体、デザイナーの方とやり取りしながら広告を作成し、社内制作の会報誌等の編集も行っています。

小さな広告だったら自分で作ることもありますし、公式SNSの運営もしたり、とにかく宣伝・PRに関する事を何でも雑多に引き受けています。

あとは書類作成が全体の仕事の40%ほどを占めています。エクセル、ワードはお友達です。

 

ーそれらを全部2人で回されているんですね。

 

そうですね〜。ホール自体は制作部門、広報、レセプショニストなど割と大きめの組織です。

 

ーそのお仕事の中で特にやりがいを感じることはございますか?

 

公演のアンケートに、自分の意図していたところではない部分の感想を書いてくださった方がいると、とても嬉しいです。そういう風にも聴けるんだなとか、逆にこちらが意図した通りに聴いてくださってた事を知れる事も、嬉しく思いますね。

中々広告って、反響が見えにくいところが多いので、実際に若い方がコンサートホールに沢山来ているところを見れた時は、より嬉しく感じます!

 

ーミューザのサマーコンサートのモーツァルトがアロハシャツ着ている広告、私はあの広告を見て演奏会に行きました!

 

ありがとうございます!!そういうお言葉をいただけるのが大変ありがたいです!

 

ークラシックのチラシで中々目にしたことがないアレンジだったので、とても興味が湧きました!

 

今年も「フェスタサマーミューザ」が夏に開催されます!気になった方はこちらをチェック

https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/about/

 

ーこれまでお仕事をされてきた中で、音大生活での経験が活かされているなと感じる瞬間はありますか?

 

大学で学んだコンサート制作の経験は通用しないところから仕事が始まっていて…実際に社会に出てやってることって、学生時代に勉強していた時とは全然違うので。それこそ泥臭い仕事や直接関係ないよねっていう仕事も沢山しました。でもそれらも全て、ホールに必要な仕事なんだということが分かりました。

スタートラインは就職してからでしたが、沢山色んな場所でアルバイトをして、経験を積むのが1番の近道かもしれませんね。

 

ーありがとうございます。勉強になります。

 

あとは「音楽家ってやっぱり自営業者なんだな」っていう覚悟ができたのは大きかったですね。

周りの音大生を見ている中で、自分が自分を売り込む、自分をコントロールして仕事をとってくるんだ。っていう意識があるかないかでその後の人生が大きく変わったなっていう人を沢山見てきました。上手い下手はそこまで関係ないと思うんですよね。

 

時々例に出すのが、同じタイミングで東京音大に入ったピアニストの金子三勇士さんなんですけど、彼の凄いところは大学に入学した時点でジャパンアーツに所属して、対外的な演奏のお仕事を大学1年生の時からしていたにも関わらず、大学の学園祭の実行委員なども務めていたんですよ。ただでさえ忙しかったはずなのに、ほぼ毎日学校にいてご友人も多かったですし、もちろん演奏会にも沢山出ていたんですよね。

そういう風に演奏だけに集中することは僕はしないよっていうのを魅せるってすごい自分の株をあげているなって私には感じていました。彼にはそういう意識は全然なくて、もともと彼に備わっている資質だと思うんですけど、それが本当に素晴らしいなあと大学の時から思っていましたね。

要するに、音楽家として仕事を続けていく上で、連絡を密にとるとか、きめ細かにクライアントに対応するとか…っていうことを出来る人ほど、その後もちゃんと演奏家を続けていられるなっていうのを凄く感じました。

和気藹々とした雰囲気で、様々な質問にお答えいただきました。
和気藹々とした雰囲気で、様々な質問にお答えいただきました。

これからは音楽に対して恩返しをしていきたい

 

ーコンサートホール以外に今でも吹奏楽を鑑賞することもお好きなんですよね?

 

吹奏楽はなんだかんだ一旦離れた時期もあったんですけど、結局興味の対象から外れなかったですね。

 

ー興味の対象から外れない理由は何ですか?

 

多分自分の強みがそこにしかないからだと思います。ずっと中高と吹奏楽漬けで生きてきた人間なので、もうここから足を洗うことは出来ないなっていうのが正直なところですね。

 

ー仕事でもプライベートも含めて音楽とともに過ごされてきていて、今後どう音楽と向き合っていきたいかお聞きしたいです。

 

本当にありがたいことですよね。そもそも音楽っていいなって考える前に音楽を好きになっていたので、今更考えたことがなかったのですが、音楽に人生を救われたなと思った瞬間は何度かあります。

今でもこの仕事に就く時に、私は音楽に対して恩返しをするんだ。ってずっと思っていますね。私が音楽に対してできることはなんだろうというのはずっと考えていて、耳が聞こえなくならない限り、ずっと何かを書いていたいです。

街全体が音楽で満ち溢れていて、心地の良い素敵な空間でした。 是非皆さんも音楽のまち・川崎に足を運んでみてください!
街全体が音楽で満ち溢れていて、心地の良い素敵な空間でした。
是非皆さんも音楽のまち・川崎に足を運んでみてください!

今後の目標と後輩たちへのメッセージ

 

ー漆畑さん自身の今後のキャリア目標や、他にもチャレンジしてみたいことはありますか?

 

広報的には、なんとかして普段クラシックを聴かない方たちに夏のフェスタに来ていただくこと。あとは、育児を、音大で出会った夫と共に分担しながら、仕事を続けていくっていうのが目標ですね。

それとは別に夫と書かせてもらった吹奏楽関係の本が出る予定です…!

 

ーへ〜凄い!素敵ですね!

最後に今の音大生に向けてやっておくべきことやアドバイスなど、メッセージをいただけますか?

 

自分のやっている行動が3年後の自分に見せても本当にいいと思えるのか。ということは時々考えて欲しいと思いますね!この言葉に尽きるかな。

 

ー本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

撮影:山吹泰男

 

 

渡邊礼葉
神奈川県出身。東京音楽大学音楽学部音楽学科器楽専攻(トランペット)4年在学中。 11歳からトランペットを始める。趣味は芸術鑑賞、カフェ巡り。
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