埼玉県川越市出身。
桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)、桐朋学園大学音楽学部ピアノ専攻卒業。
現在は、株式会社リブランマインドにて、楽器演奏ができる防音の賃貸マンションシリーズ「ミュージション」の営業を担当。
プライベートでは、桐朋学園の同級生などと組んでいるピアノ五重奏「Bella Piano quintet」にて、演奏活動を続けているほか、地元 埼玉県川越市にストリートピアノを誘致する団体「人まちピアノ」の理事として、活動を行っている。
音大生が自身のキャリアを考えるために、音大生自身が音大卒業後のキャリアについてインタビュー。
今回のゲストは桐朋学園大学を卒業し、現在、株式会社リブランマインドで営業のお仕事をされている小熊芙美子さん。音大卒というアイデンティティを活かしながら、仕事もプライベートも懸命に取り組まれている姿を取材しました。
幼少期から音楽とともに過ごす日々
ーまず幼少期からお聞きしたいのですが、小さい頃はどのように音楽と関わってきたのかをお聞きしてもいいですか?
私は 4 歳からピアノを始めました。
きっかけは、両親ともに音大出身で、音楽が大好きだった事です。
実は、渡邊さん(本日のインタビュアー)が在籍されている東京音大と、特にご縁が深いんですよ!
ーえ!そうなんですか!
はい。父・母・兄が東京音大出身で、父がフルート、母がクラリネット、兄が声楽でした。また、父は現在東京音大で教壇に立っています。そんな背景があって、小さい頃から当たり前に生活の中に音楽があり、家の中ではいつも誰かの楽器の音が鳴っていましたね。
ーご実家では防音室を使われていた訳ではなく、自由に吹けていたのですか?
はい、防音室ではありませんでしたが、近所の方のご理解ご協力があり、時間を決めて練習させていただいていました。
ー小熊さんはご家族のようにピアノ以外に他の楽器はやられていたんですか?
いえ、私はピアノだけをやっていました。
ーそうだったんですね。幼少期からピアノや音楽のある環境で過ごしてきて、高校からは桐朋学園に入られたんですよね!
はい。小学校 4、5 年生くらいに音楽高校の受験を決めて、聴音の勉強を大急ぎでやっていました。どうして音楽の道を目指したかという明確な理由はなく、小さい頃からピアノを始めて、目の前の課題をただただ必死に取り組む中で、自分を成長させたいとか、やり切りたいっていう気持ちだけで猪突猛進し、高校、大学と、恩師に導いていただきました。
音楽は人とのコミュニケーションツール
ー音大に入ってから学んできた中で、印象に残っていることや良かったなと思う事はありますか?
私は伴奏とかアンサンブルをするのがすごく大好きでした。
音高に入る前までは個人のレッスンだけを受けてきたので、アンサンブルをやったことが殆どなかったんですね。音高に入ってから色んな楽器の子に出会えて、弦楽器や管楽器とトリオを組んでみたり…
友達と意見を出し合いながら音楽を作っていく過程、レッスン、本番での演奏経験など、アンサンブルがとにかく楽しかったです。
あとは、海外で受けた講習会も非常に大きな経験となりました。
音楽って国境関係ないじゃないですか。
イタリアの講習会へ行ったときに、イタリア、ベルギーやスペイン人の友達が出来て、言葉以外に「音楽」という共通言語を持っていることが、すごく素晴らしいことだなと思ったんです。アンサンブルを通してコミュニケーションを取る経験ができたことは、言葉を超越して意思疎通して分かりあえた気がして、すごく印象に残っています。
学生時代の友達は本当に宝物で、今でも海外の子と連絡を取り続けていたり、同級生とコンサートを開いたりしていて、音楽を一緒にできる友達がいることは本当に貴重だなと思っています。また、これは社会に出てから知った事ですが、小さい頃から一貫して何かを継続している人って、意外と珍しくて。当たり前のことではないんだなと、ふと思ったりしますね。
ー音大にいると、これしかないというか他に何もできない、と思ってしまう場合もあるんですけど、一つの事をやり続けたことは社会に出た時にやっぱり力になっているものなんですかね。
そうなんですよ、ここまで自分のアイデンティティをはっきり持っている人種っていないと思っています。
例えば、私は大学の時に成績優秀者のコンサートに一回も出たことがないし、世の中には優秀な人がいっぱいいて、ピアノだけでは食べていけないことは分かっていて…
でも社会に出ると、単に技術や成績だけじゃなくて、様々なかたちで自分の強みを活かして活躍している人がいっぱい居るんです。音大に行っていなくても音楽業界で活躍している人はたくさん居ますし、学校の成績とか関係なく、音楽で培ってきた全ての経験を、わたしの個性として、胸張って言っていいんだなって後になってから知りました。
ー今その言葉がすごく刺さります。音大を出た後に自分は何を持っているんだろうって考えてしまうこともあったので..
会社員として自分の得意を生かす働き方
私は大学を卒業してから 3 年間は、フリーランスでピアノを教えたり、演奏の仕事をしていました。ただ、仕事の保障もないですし、収入も不安定で、一人暮らしもしてみたいけど、このままだと自立できないかもしれないという気持ちが芽生えて。
25 歳のときに、5 年後、30 歳になったときに、どんな生活がしたいかな・・等と考え、一度正社員という働き方を選んでみようと決意しました。「音楽 正社員」とかで検索していたら、たまたま今の仕事の求人が引っ掛かりました。
でも会社説明会に行った時に「今でも音楽やってるの?」と聞かれて、「今もやっていますが、一回離れるつもりで頑張りたいと思ってます!」と伝えたら、「いえいえ、ぜひ続けたらいいよ!」って言ってくださって。
というのも、私の上司は元バンドマンで、音楽に対する情熱や理解があった方だったんですね。会社に入ってからも、是非あなたが好きなことを続けたら良いですよとお声掛けいただいて、ここの会社だったら頑張れるかもしれない!と思いました。
そして入社以降6年間、楽器が演奏できる防音の賃貸マンションシリーズ、「ミュージション」の営業を担当しています。モデルルームをご案内する際、私がピアノを弾いて、お客様には部屋の外へご移動いただき、防音の効果を体験してもらったり、マンションの紹介動画で演奏させていただいたりもしています。
ーではフリーランスで演奏活動されていた3年間というのは、音大にいる間に演奏で生活していこうっていう風に決めておられたんですか?
いえ、私は大学の卒業式の翌日まで、将来のことを深く考えていなかったんですよ。
卒試とか卒業式など、とにかく目の前のことで頭がいっぱいいっぱいで、卒業式の翌日になって「あ、何の予定もない」みたいな感じになりまして…
「さあ何しようかしら」ってなった時に、周りの友達は勉強を続けるとか、何か新しいことを始めたとか、留学の準備をやってるとか。みんな忙しそうにしていた訳ですよ。地元の友達は、すでに用意していた就職先へ順調に駒を進めるだけなわけじゃないですか。
でも学生の間も教えるという経験をしたことがなく、音大卒業後のやることと言っても、これまでと同じように、ピアノを練習して、どこかで演奏を披露するっていう想像しかできなかったんです。教えるという道は自分事として考えられなくて、なんだかピンとこなくて。
そんなこんなで最初に少しずつ始めたことが、結婚式で演奏する仕事でした。「何という事務所に登録してるの?」と友達に教えてもらって、オーディションを受けに行き、週に2回ずつぐらい、お仕事をいただくように
なりました。その後は、ピアノ講師の情報を集め始めて、卒業した年の9月か10月ぐらいから、楽器店の講師としても働き始めました。
並行して結婚式の仕事や、自主企画の演奏会も続けたり、自宅でやっている母のピアノ教室の見学や代行もさせてもらったりして、本当に少しずつ少しずつ、なにか出来ることを見つけていきました。
ーなるほど。その生活から、音楽物件とはいえ「不動産」という業種に就かれたことでのギャップを感じた部分みたいなところはありましたか?
私の実家は引越をした事がなく、自分のお部屋探しもした事がありませんでしたので、不動産業界というのは本当に初めての世界でした。
私はアルバイトもしたことがなく、会社に勤める経験が初めてだったので、最初は体力的にも大変だったけど、割とこういうものなんだと思って気にせずやっていました。
ーという事はミュージションだけしか受けてないって事ですか?
そうですね、ミュージションしか受けていないですね。
タイミング的にも求人をはしごして受けるような時期でもなかったのと、
ーそうだったんですね!
ですから、まさか6年も続くとは思っていなくて…
一度挑戦してみて、もしどうしても続けられないと感じたら、無理せずまた新しい選択をしても良いかなぐらいに思っていたんです。
一度も行動せずに想像しているだけより、先ずは自分で試してみようかなと思いました。
何事も率先して行動あるのみ!
私は火曜、水曜が定休日で、木曜〜月曜の週 5 日で勤務しています。
日中は資料作成やお客様との面談、物件の内覧などを行っていて、帰宅したら、2 時間ぐらいピアノを弾いて、就寝までは資格勉強をしたりしています。
比較的、自分でスケジュールを調整しやすいので、コンサート前は有給を使ったり、自分の時間をしっかり確保して、演奏との両立をさせていただいています。
ーそうなんですね、不動産って聞くと結構忙しいイメージがありまして…
忙しい時期は残業をすることももちろんゼロではないですが、仕事終わりのプライベートの時間は確保しています。
ーでは演奏会も平日にやられることが多いんですか?
友人と相談し、私の仕事休みの火曜か水曜に実施させていただく事が多いです。
会社に入った当初も自主企画のコンサートをシリーズでやっていたんです。でも、最初のうちは体力が持たなくて、仕事の後に納得がいくまで練習をするという事が出来なかったんです。気持ち的には、会社に入る前と同じテンションでピアノに取り組みたいけど、自分のキャパが足りなくて、満足にやりきれない。それがもどかしかったですね。
ただ、入社して 3 年ぐらい経ってからは、仕事も、仕事以外のピアノの時間も、全力で楽しめるようになってきました。体が慣れて、時間の配分も出来るようになってきたんだと思います。
いまは演奏活動のほか、地元(埼玉県川越市)で、ストリートピアノを誘致する活動もやっています。
まさか受賞できると思っていなかったので、その時は嬉しかったですね。
また、来週(2022 年 5 月取材時)主催するピアノ五重奏のコンサートへ、会社のお客様が聴きに来てくださる予定なんです。会社の仕事を通して、一人の営業マンとして私のファンになっていただけているのかなと思うと、私がやらなきゃいけない事、私に出来る事、私がやりたい事が、少しずつ重なってきているのかなと、自分の自信に繋がります。
ー音楽に対する理解もあって暖かい職場ですね!小熊さんが会社の中で社外とのつながりっていうのを率先してやられていたからこそですよね。
ありがとうございます。
社内の方にも感謝していますし、社外にも人脈の幅が広がることがとても楽しいです。お客様や、イベント協賛などで携わる方の中には、広い意味で音楽関係の方も多くて。例えば、一口に「演奏家」と言っても、これまで接点がなかったジャンルや楽器の方とお知り合いになれたり、演奏家の方以外でも、作編曲家、ライブハウスの運営、 レコーディングエンジニアや音響、プロデューサーの方、マネジメント会社や出版社の方とか。
あとはかなりコアなアマチュアの方とか、今まで出会ったことのなかったような、色んな視点から音楽を見ている方に出会えるというのが、今仕事をしていて楽しいポイントでもあります。
その中でも、「私は弾く専門なんです」じゃないですけど(笑)
私はこうなんだって、自分のバックグラウンドを、会社員になってからも胸張って言えることも嬉しくて、色々な方法で知り合いを作りながら、外の世界との接点を持つ方法を模索しています。
ー会社に入ったことで、また音楽を通して広い繋がりもできたんですね。
そうですね。これまでは音楽のほんの一部分に関わる人の事しか知らなったのだと、思い知らされました。音楽業界についても初めて知ることばかりで、不動産業界に就職したのに、日々音楽の知識も増えていっていますね。
掛け算の組み合わせを増やせるようになりたい
ー小熊さん自身の今後のビジョンを教えてください。
私は、「自分の得意なこと」と「仕事」の掛け算を、もっと増やしていきたいなと思っています。
それがもしピアノ×◯◯ じゃなかったとしても、なにか仕事の中でやっていったことが、最終的に一番自分が繋げたい事に繋がるかもしれないし。自分が「やりたいこと」と「やらなきゃいけないこと」、「できること」で、その掛け合わされるポイントをもっとこれからも増やしていきたいなと思います。
入社当初、「不動産業界」と、「地元でのストリートピアノ誘致の活動」が結び付くだなんて、思ってもいなかった。入社当初は仕事で疲れて、日々出勤するだけでも大変だったけど、継続していくうちに自分のペースが形成されていって、そこに「やりたいこと」を上乗せ出来るようになってきました。
これからも是非、「できること」を増やして、自分と自社商品の市場価値を高めていきたいと思います。
あとは、これからも変わらずに、ずっとピアノを弾いていたいと思っています。
ー幼少期から音楽に関わってきた生活の中で、全く違う業種の仕事になってもまだ音楽を続けられてるというのは、本当に小熊さんの根っこの部分に音楽がずっとある様な感じがして…
私たちの周りの音大生の中では小熊さんのようなライフプランが結構理想的なんじゃないかなと感じることが多くありました。もっと楽に考えていいんだよじゃないけど、自分に訪れたものの流れに逆らわないでなんでもチャレンジしてみることで結果全て今に繋がっているなと感じました。
ありがとうございます。
自分が知らない世界の事でも、あまり深刻にならずに、真剣に続けてみると、案外面白くなるのではと感じています。
ー最後に今の音大生に向けてアドバイスやメッセージを頂けますか。
はい。今仰ってくださったように、音大生はすごく真面目な人が多いから、将来について考えると、悪い意味で「私には音楽以外に何がある?」って、明るい気持ちになれないという人もいるかもしれません。ですが、やってみないと分かりませんので、ぜひ柔軟に、いろんな事にチャレンジしてみていただきたいと思っています。
私自身、学生時代は、「こんなに優秀な人がたくさんいる中で、私の特技はピアノですだなんて、そんなおこがましい事を言って良いの?」なんて思ったこともありました。
でもそんな私でも、社会に出たら違いました。
もっと広い世界に出たら、音楽に全然ご縁がなかった人や、生演奏を聴いたことない人も本当に多くて。
その中で、音大に通っていた人達というのは、確固たるアイデンティティを持っている、素晴らしいことを持っていると、胸張っていいんだと、社会に出てから知りました。
音楽を仕事にどう生かすか、生かさないかに関わらず、すでにアイデンティティを持っているということが、貴重で、すでに素敵なことだったのです。
そして、これから色々な選択肢がある中で、一旦会社員を選んだとしても、音楽はどんな形でもずっと続けられるものです。音楽じゃないことに携わることで、自分の世界を広げられて、ますますいい音楽になったり、自分に還元できるところもあります。
是非、今までされてきたこと、積み重ねていらっしゃったことを大切にしながら、日々のやりがいを見つけていただければなと思っております。
音大卒って、素晴らしい!