東京都総合芸術高等学校音楽科ピアノ専攻を経て、現在東京音楽大学修士課程鍵盤楽器研究領域(ピアノ)に在籍中。
4歳よりピアノをはじめる。
第5回イモラピアノ国際オーディションインジャパン高校生の部第1位。第7回東京国際ピアノコンクール大学生の部第4位。第13回東京ピアノコンクール大学生の部第4位。第17回セシリア国際音楽コンクール大学生の部第2位。東京音楽大学学内オーディション合格者によるソロ室内楽定期演奏会に出演。東京音楽大学短期留学奨学生としてギルドホール音楽院に留学。また、学業、演奏活動の傍ら2023年より音楽ワークショップ・アーティストグループ「ここっと」として活動を行っている。
これまでに、ピアノを矢野裕子、松本明、石井克典、仲田みずほの各氏に師事。
音大生の多様なキャリアを知るために、現役音大生に卒業後のキャリアについてインタビュー。
今回のゲストは東京音楽大学修士課程在籍の星野はなさん。
演奏活動をしながらコンサート運営にも携わる原動力には、地域に根付く演奏会づくりへの探究心。そして、芸術家としてクラシック界に貢献したいという使命感がありました。活躍の裏側にある素顔に迫ります。
「ピアノが弾ける」だけじゃない、留学や音大での学び
-まずは、ピアノを始めてから大学に入るまでのお話を聞かせていただけますか?
ピアノは4歳で始めました。幼稚園で歌った曲を覚えて帰ってきて、家にあったおもちゃのピアノで繰り返しずっと弾いていたのですが、それを見かねて母が近所のピアノ教室に入れてくれたのがきっかけです。
以降、小学1年生から洗足音楽大学の付属音楽教室に通い、都立総合芸術高校の音楽科、東京音楽大学に入学。現在、修士課程に在学中です。
-高校生の時は何部に入っていましたか?
プチコンセール部という、小さいコンサートを運営して出演する部活に入っていました。
3年次には部長を務めたこともあり、ここでステージマネージメントの基本や裏方の雑務を学び、コンサートを企画・運営することを初めて経験しました。
-高校時代で印象に残っている経験は?
在学中に行ったポーランドとイタリア・イモラの短期セミナーです。この経験が音大に進学しピアノを続けていこうと決心する大きなきっかけになりました。
-留学ではどのような体験をしましたか?
ポーランド、ショパン音大のセミナーでは、ロシアの先生に教えていただき、弾き方のフォームや音楽に向き合う信念が確立された気がします。最後に門下のミニコンサートで演奏することもできました。
ワルシャワにあるショパンゆかりの地をたくさん巡ったことも印象深い思い出です。例えばショパンの心臓が収められているところや、協奏曲を書いた家とか。
またワルシャワでは毎日いたるところでコンサートなどが行われていて、クラシック音楽やオペラ、バレエなどを気軽に見に行ける環境であることにも感動しました。またそこに集まる観客も、老若男女あらゆる層の人たちがいることにも驚きましたね。日本とは全然違うな、と。
-高校での海外セミナー体験は、音大進学を決める大きなきっかけになったんですね。東京音大に決めた理由は?
「国際的な感覚を身に付ける」という理念や自由な校風がとても自分に合うのではないかと思い、オープンキャンパスや体験レッスンに参加し、最終的に決めました。体験レッスンで魅力的な先生に出会えたのも、きっかけのひとつです。
-大学で学んでいることについて教えてください。
ピアノ専攻としての実技レッスン、音楽に関する授業のほか、東京音大ならではのキャリア系の講座「ACTプロジェクト」や「ミュージックコミュニケーション講座」を受講しました。
また副科ではチェンバロを専攻しました。チェンバロもピアノも同じ鍵盤楽器ですが、奏法も楽譜を読むルールも全くの別物でした。チェンバロのレッスンを受けることで、ピアノとは違う音楽の本質に向き合うことができ、ピアノの演奏のヒントになったこともあります。バロック音楽を演奏するうえでもかなり役にたちました。
-音楽を取り巻くさまざまな事を、広く深く学ぶことができるのが音楽大学の醍醐味ですね。特に影響を受けた授業はなんですか?
「ミュージックコミュニケーション講座」ですね。教授の「社会に出たら何ができる人なのか、という視点で見られるから、ただピアノが弾けるだけではなくで、何ができるのかが大事」という考えが印象的でした。コンクールや学校の試験では、今まで積み重ねてきたことに対し点数で評価されますよね。もちろん高得点取れるのにこしたことはないですけど、実際社会に出た時に「この人は何点」とか「主席」であるとかをどれだけ見られているかというと意外と関係ない。ただピアノを弾くだけでなく、それよりも自分が何がしたいと目標を立て、そのために何ができるのかが大事だと、教えてくださいました。
-授業を受けて、視野が広がったんですね。
自分がやりたいことや将来の方向性が見え始めました。それまではピアノを演奏することだけにこだわりすぎて、将来の絵がなかなか浮かびませんでした。そんな時、社会でキャリアを積んで成功されている教授の生の声を聞いて、「そういう発想もありなんだな」と。今まで学んできたことを活かせる自分のやりたいことは何だろう。教授の言葉に導かれて視点を広げてみたら、いくつかの道が見えてきました。
クラシックの楽しみ方を模索し、実現させたコンサート企画
-演奏活動と合わせて、音楽ワークショップ・アーティストグループ「ここっと」の運営もされているとお伺いしました。立ち上げ経緯を教えていただけますか?
もともとミュージックコミュニケーション講座で一緒だった先輩お二人が、東京文化会館のワークショップリーダー育成プロジェクトなどにも参加していて、その先輩方が何か自主運営の活動をやりたいという話になった時、ピアノ担当として私に声をかけてくださったのがきっかけです。
私も音楽ワークショップの活動に興味があったし、自分の進路を考えるなかで、キャリアの一部として音楽ワークショップの仕事をやってみたいと考えていたので喜んでお受けしました。
-「ここっと」は親子向けのワークショップに力を入れていますが、そのきっかけを教えていただけますか?
音楽ワークショップは年齢や立場などあらゆる垣根をこえ、誰もが対等に音楽を通してコミニュケーションを取ることを理念にしています。「ここっと」でもこの理念に則って活動をすることで、子育て世代の方のコミュニティのひとつを提供したいという思いがあります。
また現在主に取り組んでいるのは参加型コンサートですが、今後は親子向けに限らず幅広い世代に向けて、グループワークを通して親睦を深めてもらったり、クラシック音楽に親しんでもらえるような企画にも取り組んでいきたいと思っています。
-パフォーマンスバンクが開催した「お絵かきコンサート」にも企画からご参加いただきましたね。
お絵かきコンサートで実施した、ドビュッシーのピアノ曲に合わせて絵を描いてもらうという企画は、ミュージックコミュニケーション講座の課題で実際に私が提案をしたもので、このコンサートで初めて実践することができました。
-「ここっと」の活動以外で力を入れたいことはありますか?
自分ならではの企画を盛り込んだ自主公演を開催することです。
学部1年の時に、クラシック音楽を新しい感覚で楽しめるコンサートを企画しました。ひとつのテーマを決め、それにあった曲を選び、衣装や照明でその世界観を演出しました。自分の演奏を通じて、聴いていただいている方々と音楽が生み出したその時だけの空間を共有している感覚、その充実感を今でもよく覚えています。今後もこのような企画を続けていきたいと考えていて、既にいくつか企画をあたためています。
-演奏だけでなく運営にも取り組む原動力はなんですか?
単純にアイデアを出すことや、オリジナリティのあるものを企画するのが好きなんです。あとは何においてもこだわりが強い方なので、演奏会もコンセプトに凝りたいという思いがあるからですね。しかしあくまでも演奏活動をキャリアの軸にしたいので、そのために必要なものとして企画や運営にも取り組んでいるという感じで、時間を割かれたり大変な部分はありますが、苦ではないです。
演奏を軸に、芸術家としての視点で見据えるこれから
-卒業後の夢は何ですか?
-クラシックの演奏を軸にしつつ、特に、今までクラシックに触れる機会がなかったような方、若い世代の方にも気軽に聴きに来ていただけるコンサートをつくりたいと思っています。
よくクラシックは知識がないとどう聴いたらよいのか分からず難しい、などという声を耳にします。たしかにそういう側面もあると思います。しかしその一方で、聴き方を限定されないところに魅力があると、私は感じています。商業音楽は、大衆に分かりやすいようにつくられているからこそ多くの人に楽しんでもらえて、それが魅力だと思いますが、ある意味、聴き方は限定されているように思います。
それが良い悪いという話ではなくて。
クラシックは解釈が複雑な分、人それぞれ違った聴き方ができるところに楽しみ方のヒントがあると感じます。
そこを切り口に、今後自らのコンサートづくりに取り組みたいですね。
-クラシックの間口を広げたいという思いをもったきっかけはありますか?
ポーランドに留学した時、クラシックに対する敷居が低いことに衝撃を受けたのがきっかけです。演奏会のチケットの値段が安いからというのもあると思います。一方で、国内の演奏会はチケット代が高く、客層はクラシック経験者がほとんどという印象です。演奏会のあり方がこのままで良いのか疑問をもつようになり、次第にクラシックの経験がないような方にも気軽に来ていただけるような演奏会を企画したいと思うようになりました。
演奏の他にも、ワークショップを通した社会貢献に引き続き取り組んでいきたいです。ワークショップを通して、お客さんに音楽の真髄に触れるような体験をしていただくことで、クラシックに興味を持ってもらうきっかけを提供できればと思います。
ただ、自分でも忘れないようにしているのは、私はあくまでも芸術家であるということ。運営側の仕事に携わる中でも、常に芸術家として何ができるかを考えていきたいですね。
-星野さんが人生の軸にしているマインドは何かありますか?
-自分は自分。
自分らしさを大事にすることですね。
どうしても人と比べてしまうときはあるけれど、誰にどんな評価をされたとしても、結局は自分で自分を評価できるかどうか、自分がやったことに満足できるかどうかで人生の幸福度は変わると思います。
だから、周りに何か言われたり思われたりしても、それは第三者からの評価として受け止めつつ、最終的には自分自身での評価も尊重するようにしています。
自分で納得できなければ、次の一歩を踏み出せないから。
そうは言っても自分がこれからやろうとしている様々な取り組みに対して、この考えはちょっとアウトローなのではないかとか、自分で納得したことでも後で考えが変わるかもしれない、などという不安ももちろんあります。
でも、自分で納得して挑戦したことだからこそ良いも悪いも分かるから、まずは何でもやってみるしかないなという気持ちです。